『月夜のデザイン列車』【14】

『月夜のデザイン列車』【14】

美大の入試試験が終わったのだが、
合格発表まではなんだか落ちつかなかった。

その理由は…
学科試験で睡魔に襲われたことだ。

応援してくれる両親に申し分けないことをした…
アユミは情けなくて、もう諦めようかと思っていた。

入試が終わったこともあって、
飲みに行く友人(未成年だが)も居たし、実家に帰る友人も居た。

だが、アユミはやっぱりデッサンに向かうのだった。

“いまは描くことしかできない…”

アユミの第一志望は武蔵野美術大学の
プロダクトデザイン学科。

日程が違う短期学部グラフィックデザイン科も受けた。
しかし、どとらも手応えがあるような、無いような…

せめて、短期学部にでもひっかかってくれれば…

鉛筆の滑りが良くない。
ファーバーカステルの鉛筆はたまに紙にひっかかることがある。

アユミはステッドラーの4Hに持ち替えて、
石膏像の背後から来る光を紙に写し取っていった。

・・・・・

試験の合格発表は、予備校の授業の日だった。

予備校の入り口に、合格受験番号の紙が貼り出される。
予備校生たちは一斉に群がり、自分の番号を確認する。

アユミはまだ教室で絵の具を溶いていた。

窓の外から聞こえる歓声を聞きながら、
絵筆が走るように、絵の具の水分量を調整する。

「アユミ、見た?」
息をきらせてトモコが教室に入ってきた。

「わたし、受かったわ~!!視覚伝達デザインよ!!」
トモコは第一志望に受かったらしい。

「アユミも見てきなよ!」

「う、うん、でも絵の具溶いたところだから…あとで見るわ」

トモコはスキップしながら出て行った。
友人として、本当によかったと思う。


アユミは平面構成の広い部分を絵の具で塗ると、
合格発表を見に行った。

心臓が高鳴る。

“学科で居眠りしたからなぁ…”
強烈な後悔が胸を締め付ける。

まずは、工芸工業デザイン科…

…無い。

何度も数字の列を見直す。

…やぱり無い。

アユミの中に自責の念がこみ上げる。


そのまま、短期学部のほうの合格発表を見る。


…あった…。


あった!
アユミは目を閉じて壁に額を押しつけた。

よかった…!
なんとか、受かった!

第一志望ではないけれど、
短期学部で2年で卒業だけど、
だけど、だけど…

“ヨカッタ…”


「アユミ、よかったな!」

うしろから予備校の先生の声がした。

「先生、ありがとう!」

「ムサビでもがんばれよ!」

「はい!」


アユミは空を見上げた。
淡い青空のとおくをスジになって吹き飛ぶ雲たち。

アユミの将来がふわっと明るく広がっていくのを感じた。


アユミはその晩自宅へ帰ると
真っ先に実家の両親へ電話をした。


・・・・・


その1ヶ月後、アユミは武蔵野美術大学の
四角いシンプルな門をくぐって登校した。

煉瓦のメイン通路には、様々な服装の学生があふれている。
サークルの勧誘も至る所でやっている。

各学部の前では、新入生が集まっている。
予備校で見た顔ぶれも混じっている。

これからの学生生活。
これからの、ワタシの未来!

アユミはすこしの不安とそれを上回る期待を胸に、
学生生活をはじめるのだった。


>>>>>【14】おわり


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