『月夜のデザイン列車』【11】

『月夜のデザイン列車』【11】

それからのアユミは、ひたすら描いた。

田舎モノとしての自分が笑われなくなるには
ひたすら描くことしかできなかった。


学院では何人かの友達もできたし、
寮での友人もできた。

その友人の中には
アユミを笑った子も含まれていたが、
そんなことはどうでもよかった。



そしてほどなくして、
アユミは寮を出て、アパートを借りた。

絶対に受験に受かることと、
受かってもそのまま住み続けることが条件だ。

風呂無しの狭い集合アパート。
○○荘という名前が昭和の記憶を引きずっている。

大家さんは近所の銭湯のご主人。
上京したアユミをなにかと世話してくれた。



そんなある日、事件が起こった。


アユミがアパートに帰宅すると、
アパートのドアの鍵が開いていた。


“あれ?鍵をかけ忘れたかな?”


なんて思いつつ自分の机へ行くと、
引き出しが開いている。


“あれ?私あけっぱなしだったっけ?”


ふと足下を見ると、
部屋に置いてあったデッサン用のケント紙に
靴のあとがついている!


“これは私の靴あとじゃない!!”


顔から血の気が一瞬で引いていくのがわかる。
よく見ると、そこらじゅう足跡がついている。


“だれかが、この部屋に入ったんだわ!”


アユミは近くの派出所に駆け込んだ。
そこで状況を説明して、おまわりさんに一緒に部屋に
来てもらった。

空けていない押し入れやトイレを順番に開けていく。
天袋、屋根裏など、ひととおり開けて確認する。


「なにか盗られたものってあるの?」


幸い、盗られたものは無かった。
最低限のものしか置いていないし、
金目のものも無い。

現金や通帳も無い、貧乏浪人生だ。


「アユミさんさぁ、大家さんに言って鍵変えてもらうといいよ。」


おまわりさんはひととおり調書を書いて帰っていった。

あとにぽつんと残されたアユミ。
さっきまで、だれか知らない人物が歩き回った部屋で。

幸い、鍵は大家さんがすぐに替えてくれることになった。


「2個つけといたからね。娘さんになんかあったら大変だよ」

「ありがとうございます…」


その日の晩は不安で寂しくて、泣きそうになりながら
床についたのだが、

事件はそれだけでは無かった。
その晩、アユミは長い夜を迎えることになる。


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