『月夜のデザイン列車』【11】
2009年10月17日
それからのアユミは、ひたすら描いた。
田舎モノとしての自分が笑われなくなるには
ひたすら描くことしかできなかった。
学院では何人かの友達もできたし、
寮での友人もできた。
その友人の中には
アユミを笑った子も含まれていたが、
そんなことはどうでもよかった。
そしてほどなくして、
アユミは寮を出て、アパートを借りた。
絶対に受験に受かることと、
受かってもそのまま住み続けることが条件だ。
風呂無しの狭い集合アパート。
○○荘という名前が昭和の記憶を引きずっている。
大家さんは近所の銭湯のご主人。
上京したアユミをなにかと世話してくれた。
そんなある日、事件が起こった。
アユミがアパートに帰宅すると、
アパートのドアの鍵が開いていた。
“あれ?鍵をかけ忘れたかな?”
なんて思いつつ自分の机へ行くと、
引き出しが開いている。
“あれ?私あけっぱなしだったっけ?”
ふと足下を見ると、
部屋に置いてあったデッサン用のケント紙に
靴のあとがついている!
“これは私の靴あとじゃない!!”
顔から血の気が一瞬で引いていくのがわかる。
よく見ると、そこらじゅう足跡がついている。
“だれかが、この部屋に入ったんだわ!”
アユミは近くの派出所に駆け込んだ。
そこで状況を説明して、おまわりさんに一緒に部屋に
来てもらった。
空けていない押し入れやトイレを順番に開けていく。
天袋、屋根裏など、ひととおり開けて確認する。
「なにか盗られたものってあるの?」
幸い、盗られたものは無かった。
最低限のものしか置いていないし、
金目のものも無い。
現金や通帳も無い、貧乏浪人生だ。
「アユミさんさぁ、大家さんに言って鍵変えてもらうといいよ。」
おまわりさんはひととおり調書を書いて帰っていった。
あとにぽつんと残されたアユミ。
さっきまで、だれか知らない人物が歩き回った部屋で。
幸い、鍵は大家さんがすぐに替えてくれることになった。
「2個つけといたからね。娘さんになんかあったら大変だよ」
「ありがとうございます…」
その日の晩は不安で寂しくて、泣きそうになりながら
床についたのだが、
事件はそれだけでは無かった。
その晩、アユミは長い夜を迎えることになる。
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