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ブログ blog

『月夜のデザイン列車』 【9】

2009年9月19日

3月の末。
アユミは荷物をまとめていた。

高校時代を共にした、お気に入りのものたちに別れを告げ
必要なものだけをダンボール箱に詰めていく。

要る?要らない?

わからないものは箱には入れない。
最終的にはダンボール6個に収まった。

アユミは試験の通知を、
ため息まじりに見直した。

そこにあるのは、
不合格の通知。

何度見直しても
文字が合格に変わるはずもないのに。

カルチャーショックを受けた大阪芸大は
アユミもノリコも不合格。

九州産業大は受かった。
ノリコも受かった。

武蔵野美術大学は、不合格。

わかってたようなものだが、
それでも悲しい。

「アユミ、出来た?荷物屋さん呼ぶよ?」

母の声。

「う、うん。」

「ふー、なんだか寂しくなるわね」

母が手をふきながら部屋に入ってきた。

アユミは結局、専門学校へ行くことにした。
親には負担をかけるが、1年だけ、という条件で
立川市にある美術学院へ入学することにした。

「いつ帰れるのかな…」

「さあね、一年は帰って来んのじゃないの?」

アユミが行くのは寮。
立川の美大予備校生が住む古い寮らしい。

「部屋の荷物、置いておいてね」

「わかっとるわね。置いといたげるから、はよしぃ。」

3月も終わろうという暖かい日、
アユミは西条駅で母と、母の妹に見送られて列車に乗った。

なぜかグリーン席をとってもらっていた。

列車が走り出すと、
車窓から小さくとおざかる二人。

「じゃ、行ってくる」なんて出たけど、
親と離れて暮らすのはこれがはじめて。

しかも、来年の受験に受かったとしたら
西条に帰ってくるのはいつになるんだろう?

もしかして、親と一緒に暮らすのは
これが最後なんじゃないだろうか?

まさか?

あれこれ想いをめぐらせているうちに
やがてアユミは眠ってしまった。

立川駅に着くと、寮母が迎えにきてくれていた。
年配の女性。

流ちょうな言葉で話す。

これが東京弁なの?
こちらが伊予弁で話すのが怖い。

寮の部屋に案内された。
昔は病院だったらしい。

じゃ、ここは病室?

でも環境はいい。

ほかの寮生が外で布団を干している。

“ここで生活が始まるんだわ”

アユミはこの数週間というもの、いろんなことがありすぎて
気が気じゃなかった。

正直、高校の卒業式もうわのそらだった。
ぜんぜん嬉しくなかったし、

それよりも来年の受験のこと、そして
デッサンのライバルたちが気になって仕方がなかった。

アユミは工芸工業デザインを志望していたが、
実はその先をあまり考えていなかった。

働くのはどこ?

どんな仕事になるのかしら?

そのへんよく調べないまま、必死でデッサンしてきたが、
じゃあその仕事に就くにはどうすればいいのか、
どの会社へ行けばいいのか、全くイメージできていなかった。

考えているのは、デッサンのレベルを上げて
受験に受かることだけ。

受かったあとはどうするのかなどは
そもそも頭の中に無い。

アユミは、そういう本末転倒で感情的な考え方が
自分の人生を大きく振り回すことになることを、

ずっと後で知ることになる。

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