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ワクタル デザイン&イノベーション

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『月夜のデザイン列車』 【8】

2009年9月13日

1月末。
アユミはノリコと一緒に大阪芸大にいた。

学科とデッサンを終え、あとは平面構成。

平面構成とは画用紙の上に課題から図案を構成し
ポスターカラーで彩色していくもの。

大阪芸大は特殊だと聞いていた。
キャラクターの作成が重要視される、と。

自分の課題をこなしながら、ふと周囲を見渡す。

キャラクターが画面に溢れている…

試験を終え、アユミとノリコは同じ電車に乗る。

「どうだった?」

「あかんわ、みんなキャラクター描いてたもん」

それからほどなくして、
二人は九州産業大学のデザイン科を受けた。

デッサンもいい感じ。
平面構成もそれなりにできた。

「ウチら、いけたんちゃう?!」

「うん、けっこう描けたわ!」

ノリコも上機嫌だ。
たしかな手応えを感じているみたい。

そしてアユミはさらに、
本命の武蔵野美術大学を受けることにしていた。

目指すのは工芸工業デザイン学科。

一般にインダストリアルデザインといって、
工業製品のデザインを学ぶ学科だ。

身のまわりにある工業製品が好きだったアユミ。
モノのカタチには異常なまでに惹かれる自分が居た。

好きなカメラのデザインだって、
自分なりに考えてみたりもしていた。

それに、
アユミの住む西条市には
ナショナル(現パナソニック)の工場があって、
そこで工業製品がデザインされているというのを知っていた。

2月のある日、アユミは伊予西条駅から特急列車に乗った。
入試用のポスターカラーや絵筆、鉛筆などを詰め込んだバッグをもって。

ディーゼルエンジンの列車がうなりをあげて走り始める。

アユミは不安だった。

というのも、東京へ行くのは初めてで、
どんなところなのか、一切しらなかった。

しかも、入試。
競合が多いことは覚悟している。

それではたして受かることができるのか。
奇跡は、起こるんだろうか。

岡山で新幹線に乗り換える。
京都、名古屋、新横浜、そして東京。

車窓から見る東京の街は圧巻だった。

“高いビルがいっぱい…”

西条市のビルといえば5階建てが最高くらいだろうか?
高いものといえば、山くらい。

東京駅で乗り換えて、
国分寺を目指す。

方角がどっちをむいているのか
まったくわからない。

海はどっちにあるの?
山はどこ?

街にはとにかく沢山の人が居る。
除けて通るのがやっと。
どこからこんなに人が湧いてきたんだろう?

行き先をひとに聞きまくって電車に乗り、
無事に宿に着いてほっとした。

休む間もなく、アユミは宿でデッサンを練習しはじめた。
とにかく鉛筆を動かしていないと不安で仕方がない。

4Bの鉛筆の先から描かれる線はたよりなく、
明日の試験を物語っているように見えた。

となりの宿から怒号が聞こえてきた。
東京弁なのかなんなのかもわからない。

アユミは不安と緊張で泣きそうになっていた。

次の日、国分寺からのバスに乗り、武蔵野美術大学へ着いた。
コンクリートの四角い門がそびえている。

“ここがムサビ…”

アユミは大荷物を抱え直して
試験会場に入った。

すでに沢山の受験生であふれている。
倍率は40倍だと聞いた。

学科試験を受け、実技に進む。

まずはデッサン。
静物を描く。

花瓶と花、その他のものが机の上に整然と置かれている。

それらの素材は様々、重さや質感もバラエティに富んでいる。

“こんなん、描いたコト無いわ…”

泣きそうになりながら、必死で描いた。
まわりを見ずに、集中して。

「はい、時間です。回収します。」

試験管が淡々と言った。

アユミは鉛筆や芯のカスを払いつつふと周囲を見た。

「!!!!!!」

アユミは声が出なかった。

“あんなの描けない!!”

まわりにあったのは、モノクロの鉛筆デッサンなのに
色すら感じるほどのデッサンだった。

生きた花は花らしく、
固い花瓶は固く、

前に置かれた綿花はふんわりと白く、
花切りナイフは光りを受けて輝いてすらいる!

黒い鉛筆で書いたのに、なぜか光を感じる絵…。

それに対してアユミのはどうだろう。

どす黒く、全部が同じトーンを放っている。
みんな粘土でできているようだ…。

アユミは凹んでしまった。
顔をあげてまわりを見ることはできなかった。

そのあと、どうやって平面構成の試験をこなしたのか
まったく覚えていない。

どうにか描いて、どうにか荷物をまとめて
逃げるように東京を後にしたのだった。

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