『月夜のデザイン列車』 【1】
2009年8月13日
夏の台風においてけぼりにされた雲たちが空に散らばっているのを、
アユミはそっとカメラに納めた。シャッターの音が静かにひびく。
雲たちはゆっくりと東に向けて移動し、やがて山の向こうに消えていく。
昨夜の雨に打たれたあとの静けさとかすかな風が、アユミを取り囲んでいた。
アユミ。地元に1校しかない高校に通う、どこにでもいる女子高校生。
風景を眺めるのが好きで、いつしかそれをカメラに納めるようになった。
首からぶら下げた一眼レフは、いつもは会えない父親からのプレゼント。
決して高価ではなかったが、近所の散歩のときにはいつも持ち歩いて、
なにげない風景や野良猫、小さな花などを撮った。
フィルムの現像代のためにアルバイトをし、写真店からプリントが
あがってくるときのワクワク感に、なによりの喜びを感じていた。
そんなアユミには当然彼氏もいなかったが、趣味の点では充実していたと言える。
アユミは首から下げたカメラを両手で押さえながら、ゆっくりと坂を降りた。
一歩一歩の足音が、ところどころ濡れたアスファルトに染みこんでいった。
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